2017年3月22日水曜日

4月8日日本公開!『ぼくと魔法の言葉たち』”Life, Animated”

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今年のアカデミー賞®にもノミネートされたドキュメンタリー映画の必見作『ぼくと魔法の言葉たち』が、いよいよ4月8日、日本でも公開になります(ちなみに受賞したのは"O.J.: Made in America"。O・J・シンプソンについては昨年テレビシリーズも作られたのに、まるでアメリカはOJに取り憑かれているみたい)。

映画の感想については、一年前のアメリカ公開時に書いていますが、DVDが出たのでもう一度観ると、あらためて素晴らしい作品で、笑ったり、じーんとしたり、ハラハラしたりと、ディズニー映画鑑賞中のオーウェンみたいな状態でした。

上のチラシの真ん中で、自分が描いた絵を背にして誇らしそうに腕を組んでいる若者が、オーウェンです。カジモドやジミニー・クリケットなど、ディズニー・アニメーションのなかでも、地味目なキャラクターが描かれているのにお気づきでしょうか。

オーウェンはまだ2才のとき、自閉症を発症して、言葉がしゃべれなくなり、家族とも、だれともコミュニケーションがとれなくなってしまいます。そんなオーウェンが言葉を取り戻したのは、ずばりディズニー映画のおかげ。そして、オーウェンが自分を重ねたのは、アラジンやヘラクレスのようなヒーローではなく、オウムのイアーゴやザリガニのセバスチャンら、脇役たちでした。

「ディズニー・セラピー」
ビジネス社刊
オーウェンの父親ロン・サスキンドが著した「ディズニー・セラピー」を下敷きに、映画は主に、原作以降の、大学生になったオーウェンが卒業し、一人住まいをはじめ、独り立ちしていく様子を描いています。それ以前についてはサスキンド家のホームムービー、写真、家族の証言、それにパリのアニメーションスタジオMac Guff制作による優しい手描きの〝バックストーリー・アニメーション〟で語られます。

構成上、子ども時代のお話はあまり突っこんで語られませんが、そのあたりは是非原作本で、読んで欲しいと思います。

普通の男の子だったオーウェンに突然異変が起き、とまどうロンと妻コーネリア。何人もの小児科医に診せて(そのうちのひとり、ローゼンブラット医師は映画に登場)自閉症と診断され、衝撃を受けながらも効果的な治療法を模索し、オーウェンを受けいれてくれる学校を必死に探すふたりの苦悩と愛、兄ウォルターの戸惑い。そしてあるとき、オーウェンがディズニー映画のセリフをしゃべっていることに気がついたときの、両親の驚きと興奮。

 その後も続く、家族と医師チーム一丸となっての自閉症との闘い——ディズニー映画を中心に回る家族の暮らし、学校や世間の壁にぶつかるたび悔しさに涙するコーネリア、何度でも両親や医師を驚かせるオーウェンの不思議で奥深い内面と裏腹にままならぬ社会的な成長、コーネリアがいやいや教師を務めた自宅学習、友だちづくりの悪戦苦闘、いじめによる退行、アーティストとして目覚めていくオーウェン、否応なく自立していく兄と両親の悲哀、手探りで自活への道を探る弟、ディズニーのアニメーターや声優との交流——「ストーリーテリング」の力を通して固い絆で結ばれていく一家の姿を、ピュリツァー賞作家ロンによる洞察力とユーモアあふれる筆致で描いています。

映画では、サスキンド家の住むケープコッドや大学のキャンパス、「ディズニー・クラブ」、冒頭で語られる自宅の庭でのピーターパンごっこ、オーウェンのたたずまいなど、文字を負いながら想像していた情景が映像として提示され、見入ってしまいます。大学に入って出来た恋人エミリーとオーウェンのデートはほほえましいです。ウォルターは頼れる兄貴然としているのに、大人になっても子ども時代と同じように誕生日にメランコリーに陥ったり、弟の将来を思いつめるぐらい心配している心情もカメラに収められ、人によっては兄貴に一番共感をおぼえるかもしれません。

昨年末、大統領選の最中、「ザ・レイト・ショー・ウィズ・スティーヴン・コルベア」という政治ネタを笑いにするのが得意な司会者の番組に、ロンが映画のプロモーションのために出演したのですが、オーウェンはディズニー・キャラクターの誰をトランプに例えているかとの質問の答えが、『美女と野獣』のガストンでした。いじめっ子でねたみを利用して手下を作り、ヒーローづらだが最後はヴィラン(悪役)になるからだそうです。

本のなかでも「ディズニー・セラピー」「こだわりセラピー」の名称でロンが触れていますが、オーウェンの治療を通し、ロンは自閉症の人たちの「こだわり癖」を利用したコミュニケーションツール&教育法を考案し、The Affinity Project(こだわりプロジェクト)という会社を立ち上げ、Siriの開発者や医師たちとともにSidekicksというアプリを開発しています。英語版ですが、リンクを張っておきます。

訳している最中、自閉症については何冊か本を読んだりネットで調べたりして勉強しましたが、あれからさらに研究は進み、出版当時は脳の問題と考えられていた自閉症が、どうやら神経に原因があるらしいとの見方に傾いているようです。今後もきっと、科学者や医者、そしてサスキンド一家のような献身的な家族たちの努力によって、どんどん解明が進んでいくことでしょう。

最近のインタビュー記事やクリップをみると、オーウェンはある時点で自分を脇役視するのをやめて、ヒーローに成長したとみなしているようです。いろいろ経験して克服してきましたもんね。映画にもなって、オスカーのレッドカーペット歩いたし! ウィリアムズ監督は、とある場で「ずっと密着取材していたから、自分はもうサスキンド家の一員みたいに感じる」と言っていましたが、私も原作の翻訳をしていくうち、彼らをすごく身近に感じ、勝手に身内みたいに思っています。May The Force Be With Them!

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2017年5月の夜、テレビをつけたらオーウェンが映っていてギョッとしました。
ABCチャンネルのレポート番組"20/20"で去年特集した"Finding Owen"を、アカデミー賞での様子やロンのThe Affinity Projectなど、追加映像を交えて再放送したのです。危うく見逃すところだった。やっぱり縁がある!?
これは初回放送のクリップ。
今回の追加部分は残念ながらなし。

 番組は、映画版では少ししか紹介していなかった発症前のちびっこオーウェンのホームムービー(ホントにかわいい、ごく普通の男の子)ももう少し出てきます。当時のことを語るロンとコーネリアの映像は映画でも他のレポート番組でも様々なバージョンで何度も観たけれど、いつでも同じことを話しているのに、ふたりとも涙ぐんで、とても悲しそうに、辛そうに、当時を振り返っています。努力が実って今ではオーウェンが立派にやっていても、あの頃の辛さがそれで薄れたり癒やされることなく、いまだに生々しく記憶しているのですね。オーウェンが一人暮らしをはじめた夜、ベッドで『バンビ』を観ている場面をコーネリアはサンダンス映画祭の初上映で初めて観たそうです。お兄さんが将来の心配をしているところも、初耳だそうです。
 新情報としては、オーウェンは映画館のほかにトイザらスでもバイトをしていて、大学のラジオ放送でDJもしています。
 原作にはあったけれど映画では語られなかったバルミツバーでの素晴らしいスピーチ(これはアメリカで出た映画のDVDに特典映像として収録されています)やディズニースタジオを訪ねてキー・アニメーターたちに会った場面(ドン・ハーンも出てるよ)、それから失恋の痛手から立ち直ったオーウェンや、全米各地の映画祭を回った時の映像(私が観に行ったサンフランシスコの映画祭も映ってる!)など盛り沢山で、映画の副読本として見応えがありました。


『ぼくと魔法の言葉たち』
4月8日よりシネスイッチ銀座ほかにて全国順次ロードショー
【監督】ロジャー・ロス・ウィリアムズ(アカデミー賞®短篇ドキュメンタリー賞受賞作『Music by Prudence』)
【原作】「ディズニー・セラピー 自閉症のわが子が教えてくれたこと」(ビジネス社・刊)
【製作】ジュリー・ゴールドマン『アイ・ウェイウェイは謝らない』 / ロジャー・ロス・ウィリアムズ
【出演】オーウェン・サスカインド / ロン・サスカインド / コーネリア・サスカインド / ウォルト・サスカインド
2016年 / アメリカ / 英語 / 91分 / カラー / DCP / 原題:Life, Animated / 日本語字幕:松浦美奈 /
後援・字幕監修:一般社団法人日本自閉症協会

1 件のコメント:

ロク さんのコメント...

May The Force Be With you!