2017年5月20日土曜日

“Big Little lies”『ビッグ・リトル・ライズ~セレブママたちの憂うつ~』

HBOが製作した全7話のミニシリーズ。
監督は『ダラス・バイヤーズクラブ』のジャン=マルク・ヴァレ、製作総指揮/脚本に『アリー my LOVE』のデイビッド・E・ケリー、主演のリース・ウィザースプーンとニコール・キッドマンは製作総指揮もつとめている。

アメリカでは今年の2月から放映され、回を追うごとにぐんぐん評価と評判が上がっていきました。
私が観たいと思った理由は、モントレーを舞台にしたドラマだったからです。私の住むサンタクルーズからは車で小一時間ほど離れた風光明媚な海辺の街(サンタもモントレー湾沿いの街のひとつ)で、スタインベックの小説で有名なキャナリー・ロウや、『ファインディング・ドリー』に出てくる水族館のモデルであるモントレー水族館などが目玉の観光地でもあります。去年、地元のニュースでロケ撮影の様子が伝えられました。

セピア調、あるいは青みがかった色調で描かれるモントレーは予想以上に美しく撮られ、まさにピクチャレスク(同じ撮影監督でサンタも撮って欲しい〜)。その絵のような街を舞台に、同じ小学校に通う子どもを持つ5人の母親たちの、それぞれの日々を送る間に生まれるドラマが交錯していきます。

小学校の資金集めのために開かれる毎年恒例の夜会イベント(今年はエルビスとヘプバーンがテーマ)で、殺人事件が発生した。殺されたのは誰? 殺したのは誰? 現場検証を終え、警察はイベントに集まった学校職員や父兄たちから事情聴取をはじめる。


ことの発端は、半年前にさかのぼる。小学校の新年度初日、アマベラ(子役のアイヴィー・ジョージちゃんは、『ツイン・ピークス』リバイバルに出演!)という女の子が、男の子にいじめられたと訴えた。教師は迎えに来た父兄の前で、いじめた子を指ささせる。アマベラはジギーという男の子を指さした。アマベラの母親で、成功したキャリアウーマンのレナータ(ローラ・ダーン)はその途端に逆上し、すごい剣幕でジギーに謝罪を求める。ジギーが自分はやっていないと言っても、聞く耳を持たない。いたいけな男の子を糾弾するレナータに怒ったのが、父兄の一人、マデリン(リース・ウェザースプーン)だ。マデリンは、ジギーの母親で、サンタクルーズ(Yeah!)からモントレーに引っ越してきたばかりのシングルマザー、ジェーンを気に入っていた。マデリンは小学生のクロエとティーンエイジャーのアビゲイルの、二人の娘を育てる専業主婦で、地元の演劇活動のボランティアをしている。かくしてそれぞれの子どもと伴侶、クラス全体の父兄と学校職員、さらには市長らをも巻き込んだ、レナータ対マデリンの戦争が勃発する。

マデリンもレナータも、マデリンの親友セレステ(ニコール・キッドマン)も、いわゆるセレブ妻で、モントレー湾を一望できる豪邸に住んでいる。美しい眺望を思うさま独り占めしながら、海に背を向け、口をゆがめて不満を爆発させるセレブ妻の姿が悲しい。

冒頭で起きた殺人事件の被害者と加害者は、最後のエピソードで明かされます。

西海岸の優雅でリッチなセレブ妻たちの物語ですが、子育て、過保護ママ対学校、ママ友づきあい、キャリアウーマン対専業主婦、そして夫もふくめた男性優位社会におけるそれぞれの地位等、日本の女性たちも共感できる切実な問題をたくさんはらんでいます。日本では6月からスター・チャンネルで放送が開始され、アマゾン等のオンデマンドでも有料で観られます。

(ここからややネタバレ含みます。)

アマゾンの紹介には「ダークコメディ」とありますが、私にはコメディ要素はほとんど感じられませんでした。家庭内暴力等のシリアスなテーマを、『デスパレートな妻たち』や『アリー my LOVE』のように、コメディで口当たり良く薄めることなく真っ向から取り組み、なおかつ一級のエンターテインメントに仕上げているところが、この作品が評価されているゆえんじゃないんでしょうかね。はたから観れば、それすらも、かしましい女たちの繰り広げるどたばたコメディであり、笑って気楽に楽しむのが視聴者の作法とでもいうのでしょうか。女性のはしくれである羊から言わせてもらえれば、暴行を受けてもけろっとしている『エル』のヒロインは、男であるバーホーベンの虚構だ。何度も何度も、犯人を銃で撃ち殺す想像をするジェーンに、コメディ要素はかけらもない。『ビッグ・リトル・ライズ』の監督も男性(原作は女性。舞台はモントレーではなくオーストラリアの街)だが、放映後に流される短いメイキング映像で、女優たちの演技に涙ぐんで感動していた。エンパシー能力のある人物が手がけているかどうかの違いだろう(『エル』がすごく嫌いなのでちょっと暴走してます)。

のどかで美しい住宅街に潜む昏い秘密、という構図以上に、デヴィッド・リンチを思わせるところのある作品です。ログレディや赤い部屋で踊る小さい人的なものは皆無だけど、毎回、ドリーミーな場面が出てくるし、ブラインドがゆっくり上がると浜辺が見える演劇的なオープニングとか、全体をくすぶるように覆う不穏な空気とか、それに音楽の使い方とかね。マイケル・キワヌカの”Cold Little Heart”にモントレー湾の美しい映像を載せたオープニングは最高。同じHBOの『ソプラノズ』に匹敵するほど印象深いです。最近、リンチ漬けの自分の気のせいかとも思いましたが、アマゾンの原作小説のレビュー欄に、「リンチが拍手するだろう」みたいな評があったので、そう連想するのは私だけではないはず。リンチのミューズ、ローラ・ダーンだって出ている! ちなみに私は『ランブリング・ローズ』のダーンが大好きだ! 

なまじなミステリやホラーよりも、どきどきハラハラしながら観ました。絶対今年のエミー賞にノミネートされるでしょう。

セレステには出張続きのハンサムな年下の夫との間に双子の男の子がいますが、双子ちゃんが家で観ている映画がレイ・ハリーハウゼンのサイクロプス(『シンドバッド七回目の航海』)だったり、ジェーンとジギーが水族館(モントレーが舞台とくればこれが出ないわけがない! レナータは水族館の理事のひとり)を訪れる場面のBGMがジェファーソン・エアプレインの「ホワイトラビット」だったりするのが好きです。

最終回のニコール・キッドマンが超きれいでした。

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数年前、中国系アメリカ人ママの子育て論『タイガー・マザー』が流行りましたが、こちらは日系アメリカ人ママで、なんと私立高校を自分で創立してしまったミセス・タツイ・ダーシーの子育て論。

スーザン・タツイ・ダーシー著
有澤真庭訳

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